夕飯の後、私は1人で大浴場「薬師の湯」に向かった。
四万やまぐち館のロビーは4階に位置し、露天風呂は2階で、1階にはこの「薬師の湯」がある。
なんだか、洞窟に潜っていくような、そんな冒険感を感じられるような造りだ。
1階につくと、夜だから当然ではあるが薄暗く、温泉の匂いと湿気がますます地下という雰囲気を醸し出している。
さらには薬師の湯は完全室内浴場で窓がない。
勝手な主観だが、洞窟を潜った先の地下秘密基地のような趣きだ。
そして驚いたのが、薬師如来像だ。
奥の方、湯船に浸かってちょうど見えるあたりに、薬師如来様がいらっしゃった。
薬師如来様の足元が温泉が湧出している。
薬師如来様は医薬の仏である。
これほどまでに湯治に適した温泉がほかにあるものだろうか。
せっかくだから、薬師如来様に近いところに入ろうと思って湯に足を入れた瞬間、足に衝撃が走った。
「うぉう!めちゃくちゃ熱いやん」と口走ってしまった。
浸かっていると肌がジリジリ痛むほど熱かったのだ。
露天風呂はそれほど熱くなく、長く浸かっていられるお湯だったため、油断していた。
私はゆっくり湯船に入り、膝を折り、腰を折り、肩まで浸かった。
体を動かすたびに肌が焼けた。
そして顔を上げると、先程と同じ顔で薬師如来様がいらっしゃった。
こんだけ目の前で自分の足下から湧き出してる温泉を熱がってる人がいて、少しも表情を崩さないのは、流石である。
しかし不思議なもので、仏像展などで仏像を見ても「へー」という感想以外全く起こらない私でも、こんな風に拝み上げるような姿でじっくり見ていると、このままずっと見ていたいような気になってくる。
ただ、このままずっと入っているにはこの温泉は熱すぎる。
這々の体で湯船から退散し、薬師の湯を出た。
部屋に戻ると、はなちょは眠っていた。
時刻は19時半。貸切露天風呂の時間までまだ1時間ある。
私は電子書籍を読んで時間を潰した。
まだお腹が重たく、川のせせらぎの音が心地よいため、眠気が襲ってくる。
私も半ば眠りつつ、20時半を迎えた。
はなちょを起こし、8階に向かう。
我々が予約したのは、4つある貸切露天風呂のうち、「花さかの湯」という露天風呂だ。
他には白寿の湯、こづちの湯、竹取りの湯がある。
フロントの従業員さん曰く、違いはほとんどないそうだ。
ただ、長寿、子宝などのコンセプトがそれぞれあり、それで選ぶのも楽しい。
花さかの湯のコンセプトは人生だ。
人生に花を咲かせる花さかの湯。
なんだかとっぷりと浸かっておきたい湯だ。
熱すぎた。
浸かっていられなかった。
薬師如来の再来である。
そして湯の外は寒すぎた。
足を焼き、体は寒さに耐える修行だ。そうか、人生の花はそう簡単には咲かないのだ。艱難辛苦に耐え、忍び、その先にようやく気づくと咲いている。それが人生の花なのである。
教えられた。
四万温泉に吹く夜風と熱湯に教えられた。
なんと清く尊い教えであろうか。
1階から薬師如来様が微笑みを向けてくださっている気がした。
「ようやく気づきましたか」と。
そう感じた次の瞬間、我々は「下の露天風呂の方がいいね」という言葉を残し、花さかの湯を後にした。
ちなみに展望露天風呂ということだが、夜なので暗くて辺りはあまり良く見えなかった。
貸切露天風呂に入るなら、夕方頃の方がいいかもしれない。これから四万やまぐち館に行かれる方にはそうオススメしたい。
ただ、木々のそこここがポツンポツンとライトアップされていて、見所がないわけではない。
その幻想的で穏やかな夜の自然を眺めながらゆっくり露天風呂に入りたいのであれば、貸切露天風呂は最高だと思う。
我々は早々に出てしまったが、湯船の温度を調節できるので、ゆっくりすればよかったかもなと、あとで後悔した。
次回へ続く
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