【選択の科学】記事まとめ

心理

 

 「選択の科学」について投稿した記事をまとめます。本書は、著者自身の研究も含め、多くの研究結果の紹介や考察などをまとめた本です。選択、というものの面白さや奥深さに、読み進めるほど感動させられます。個人的に一番興味があったのは、やはり著者自身の研究として有名な「ジャムの実験」です。

 

 

動物園の動物はなぜ寿命が短いのか

 1994年、動物園で飼育されているホッキョクグマが、プールを延々と往復してひたすら泳ぎ続けるという異常行動を見せました。

 その行動は、神経症の症状とみられ、診察にあたった動物行動学者は、そのホッキョクグマには、本能を発揮できるような課題や機会が必要だという診断を下しました。

 そのホッキョクグマは、動物園で飼育される中で、野生に比べて、自分がどこでどうやって時間を過ごすか、自分で選択するという機会を奪われて過ごしていました。そのことが、ホッキョクグマにストレスを与え、神経症の症状をみせるに至ったのでした。

 同じように、実験用のネズミやペットのハムスターにも、神経症習癖である、異常な毛繕いなどの行動がみられることがあります。

 そしてこういった行動は、一般的な抗うつ剤の一種を投与することによって、軽減または消失することがわかっています。

 つまり、動物園の動物の寿命が短い原因は、選択する機会を奪われていることにある。と言えるようです。

 

 動物園の各ブースは、そこで飼育されている動物たちの野生での生息環境をできるだけ忠実に再現しようとしていますし、快適さを追求しています。

 しかし、どんなに進んだ動物園であっても、動物が野生で経験するような刺激や、自然な本能を発揮する機会を与えることはできていません。

 私は、動物園は好きですし、動物とふれあうのも好きです。なので、動物園を否定する気はありませんが、これを読んで、難しい問題だなと感じました。

 

取り決め婚と恋愛婚とどちらが幸せか

 日本で生まれ育つと、取り決め婚という文化はもう過去のもので、現在婚期を迎えている20代30代の人たちはほとんど、結婚=恋愛婚と考えていると思います。私も含めて。

 しかし、一昔前は、お見合いで結婚を決めることが主流でした。個人主義的傾向の強まりにより、日本では現在、9割程が恋愛婚となっているとのことですが、この人生最大の岐路と言っても過言ではない”選択”について、二つの方法のどちらがより、幸福度を高めるのか、あるいは差はないのか。インドで調査が行われました。

 50組の夫婦を対象として、半数は取り決め婚、もう半数は恋愛結婚、そして結婚期間は1年から20年までの夫婦が集められました。

 協力者全員に、恋愛感情の強さを測るための質問に対して、どれだけ自分の気持ちが当てはまるかを、数字で答えさせ、その結果を、【取り決め婚と恋愛結婚】という側面、また【結婚期間の長さ】という側面から分析しました。

 結果は・・・

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 恋愛結婚をした夫婦のスコアは、結婚したての場合、91点満点中平均70点でしたが、結婚期間が長くなるにつれてスコアは徐々に低下し、10年を超えるとわずか40点となりました。

 取り決め婚をした夫婦のスコアは、結婚したての場合、平均で51点と、恋愛結婚の場合よりも低いスコアでしたが、結婚期間が長くなるにつれてスコアは逆に高まり、10年超の時点で68点となりました。

 この調査での結果、恋愛結婚は熱く始まるが、徐々に冷めていき、取り決め婚は冷たく始まるが、徐々に熱くなっていくということがわかりました。

 本書では、要因の一つに、結婚生活の幸福度基準が、恋愛結婚の場合、初めのとおりの愛情を持っているか、で測られるのに対して、取り決め婚の場合は、集団主義的観点等からの義務の達成度で測られることによるとも書いています。

 恋愛結婚は、一番熱いときに結婚してしまうため、相手や結婚生活への期待値が高すぎる状態になってしまうのでしょうね。

 私も現代日本人なので、取り決め婚より恋愛婚の方がいいと思っています。恋愛と結婚は違うものだとも思います。恋愛の単なる延長で結婚を決めてしまうのは早計に過ぎるのでしょう。

 打った鉄がちょうどいい具合に冷めてから、しっかりとした強度を持った折れない鉄になっているか確認してから、結婚を決めても遅くないと思います。

 そして、実際に結婚する前に、相手に自分の親族のコミュニティーに参加してもらって、疑似的に”取り決め婚”の形に近づけるのも、できればやっておいた方がいいことだと思います。結婚前に、自分の親族に「あの人、いい人だね」と、言ってもらえていたかどうかが、その後の結婚生活の幸福度を測る価値基準が、単なる恋愛感情の強さと持続期間の長さだけになってしまうことを防いでくれると思います。

 それにしても、結果として行うことは一緒だとしても、”選択”の手法によって、その後何十年の幸福度の推移が変わってくるというのは、人間心理の面白いところだと思いました。

 

やる気を出させる上手なご褒美のあげ方

 本書で紹介されているあるテストがあります。

 皆さんも、自分だったらどう感じるか、考えながらお読みいただきたいと思います。

問1.今から1か月後に1万円もらうのと、2か月後に1万2千円もらうのとでは、どちらを選びますか。

問2.それでは、今1万円もらうのと、1か月後に1万2千円もらうのとでは、どちらを選びますか。

 どうでしょうか?二つの問は、時期が違うだけで、もらえる金額(本書ではドルですが、わかりやすいように日本円になおしています)については、変わりないのに、感じ方が違ったのではないでしょうか。

 実際に、問1ではほとんどの人が2千円余分にもらうために待つ方を選んだの対して、問2では、1か月待つよりも、2千円少ない金額を今もらう方をほとんどの人が選びました。

 人間は、問1のような場合は、熟慮できるようになっているため、1か月余分に待つことでより大きな利益が得られることを論理的に考えて判断できます。

 しかし、問2のように、今現在得られるご褒美をちらつかされると、熟慮することができず、感情や感覚に左右され、自制心を働かせることができなくなってしまいます。その結果、1か月待つことともらえたはずの2千円を失うことを合理的に比較することをしないまま、判断してしまいがちです。

 上記のテスト結果から見えてくる人間心理を逆に利用することで、やる気が出るような上手なご褒美のあげ方を工夫してみましょう。

 つまり、人間は、「遠い時期の大きな利益」よりも「近い時期の小さな利益」に対して、どうしても魅力を感じてしまうのですから、達成したいことがある場合、「全て完了したら100%のご褒美」ではなくて、「10個のステップのうち、1ステップクリアごとに10%のご褒美」をあげるようにする方が、効果的だということです。

 それも、「全て完了」が1か月かかって、「10ステップのうち1ステップ目」が1週間かかるというようなステップの設け方では、問1のように熟慮システムが働いてしまいますので、ステップはなるべく「今日とりかかったら今日のうちに終わる」くらいに細かい分け方にした方が良いと思います。

 勉強でいえば、読むべき本が10冊あるとして、すべて10回読むことを目標にしたとします。その場合は、10冊×10回=100ステップ(1冊を1回読んだら1ステップ)とした方が、ご褒美のあげ方として効果的なのです。

 上記の問1問2のテストの場合では、もらえるはずの2千円を失う選択を人生のうちに何度も繰り返してきている人は、どデカい損失を積み重ねてしまっているということなので、一度よく考えてみるべきですが、自制心を鍛えるのはとても難しいことなので、それを逆手にとって、脳になるべく快適な状態でやる気を出させる方法に利用してしまいましょう。

 

人は皆、ブランドに踊らされている

 本書では、私たちが普段”選択”をする時、どれほど有益でない情報等に踊らされているかがわかる調査が紹介されています。ここでは、本書に記載されている調査を3つ紹介します。

調査1

 通行人にミネラルウォーターと水道水をどちらかわからないように飲んでもらって、どちらが美味しいか答えてもらうという調査が行われました。

 結果、75%の人が、水道水の方が美味しいと答えました。

調査2

 オシャレなレストランで、俳優を「水ソムリエ」に仕立てあげ、何も知らない食事客にミネラルウォーターのメニューを見せます。

 メニューには、「マウント・フジ」「ロー・デュ・ロビネ」などといったそれらしい名前が並び、高いもので7ドルもするメニューを用意しました。このメニューは実際には存在せず、用意されているものは、レストランの裏庭の蛇口から汲んできた水道水です。

 この水道水を、食事客に提供し、反応を見るという調査です。

 水ソムリエは、食事客に「天然の利尿剤、抗毒剤です」と説明しながらオススメしました。この説明は、水道水にも言える当たり前のことなので、ウソではありません。

 水を注文した客には、ボトルから水をグラスに注ぎ、残りのボトルを氷の入ったワイン・クーラーに入れて、テーブルの隣にうやうやしく置きました。

 その水を飲んだ食事客は、水道水より明らかに美味しく、さわやかで口当たりがいいと絶賛しました。

調査3

 ワインの初心者に、値段の違う5種類のワインを試飲してもらい、味を評価してもらうという調査が行われました。

 まず、目隠しして、値段の違いがわからない状態で試飲してもらったところ、味の評価に大きな違いはありませんでした。

 次に、目隠しをせず、値段が付けられた状態で試飲してもらうと、高価なワインほど評価が高くなりました。ところがこの時のワインは、協力者には内緒で、同じワインに5種類の値段を付けたものでした。それなのに、高い値段が付けられたものほど、高い評価が付けられたのでした。

 

 上記の調査結果からわかることは、冒頭でも書いたように、私たちがどれほど有益でない情報に踊らされているかということです。

 自らが精通していないことに関して”選択”をする時には、どうしても外部からの情報を手掛かりにする必要があります。

 しかし、巷には、企業の誇大広告や、自分自身の勘違い、既成概念、はたまた故意に与えられた誤った情報など、有益でない情報が溢れています。

 多くの人が毎日口にしている水一つとっても、水道水かミネラルウォーターかを飲んだだけで当てることは難しいのです。そもそも、どうして一般的にミネラルウォーターの方が水道水よりも”良い”とされるのか、その違いはなにか、その判断に係る情報さえ、まともに与えられていないと言えると思います。

 そんな風に考えると、”選択”することは常に暗闇を手探りで行くようなものです。

 ブランドに踊らされることも、仕方のないことのように思えます。 

 

品揃えが豊富すぎると逆に売り上げが下がる

 アメリカのスーパーマーケットで行われたジャムの実験というものがあります。この実験では、「品揃えが豊富すぎると逆に売り上げが下がる」という興味深い結果が出ました。

 300種類のジャムの品揃えがあるそのスーパーマーケットでは、買い物客に紹介するため、試食コーナーが常設され、同じの商品の20から50種類ものサンプルを試食できるようになっていました。

 そのスーパーマーケットの入口近くで、「ジャムの実験」は行われました。

 そこに設けられた試食コーナーでは、数時間ごとに、試食用のジャムを、24種類置いておくパターンと、6種類しか置かないパターンに変えました。

 その結果、24種類のときは、買い物客の60%が試食に立ち寄りましたが、6種類のときは、40%しか立ち寄りませんでした。ここではまず、当然ながら、品揃えの多い方が、目立つし集客効果はあるということがわかります。

 試食コーナーに立ち寄った買い物客には、全てのジャムに使え、1週間有効の1ドル引きクーポンを渡しました。ジャムを購入したほとんどの人が、受け取ったクーポンをその日のうちに利用しました。

 設置した試食コーナーでは販売はしなかったので、24種類のときも6種類のときも、買い物客は試食をしたあと、さらに多くの種類のジャムが並ぶジャム売り場へ行き、そこで実際にジャムを選んで、レジで購入しました。

 ジャム売り場を調査チームが観察したところ、24種類の試食コーナーを見た買い物客は、ジャム売り場に来てからもジャムのびんを手に取り、どれがいいか迷い、長いときには10分も迷った挙句、多くの人が手ぶらで去っていきました。

 ところが、6種類しかないの試食コーナーを見た買い物客は、ジャム売り場に来ると、1分ほどでジャムを選び取っていきました。

 結果的に、24種類の試食コーナーに立ち寄った買い物客のうち、ジャムを購入したのはわずか3%だったのに対し、6種類の試食コーナーに立ち寄った買い物客は、そのうち30%がジャムを購入しました。

 品揃えの多い試食コーナーの方が、買い物客の注目を集めたのに、実際にジャムを購入した客の人数は、少ない試食コーナーの場合の方が、6倍以上多かったのです。

 これほど圧倒的な結果が出ることには驚きますが、自分の体験から考えてみると、これは当然のことのように思えます。

 特に私のような優柔不断な人間は、選択肢が多すぎると選べないということがよくあります。観光地の土産物屋さんみたいな、試食できる商品がたくさんあるお店を見て回ること自体はとても楽しいのですが、いざなにか買おうと思っても、選びきることができず、「今回は買わなくていいかな」と、帰ってしまうのです。

 こういった経験をされたことのある方は多いのではないでしょうか。だからこそ、上記の実験の結果となったのでしょう。

 お店をやられている人は、試食コーナーやおすすめコーナーなどが、ただの見せ物コーナーになってしまわないよう、考える必要がありますね。ただ、買い物客としては、試食コーナーは種類が豊富な方が、結局嬉しいです。

 

終わりに

 以上で、「選択の科学」の紹介を終わります。

 本書で紹介されている研究はどれも大変面白く、興味深いものです。この記事紹介したものはほんの一部で、本書ではもっとたくさんの面白い研究が紹介されています。

 人間は、言ってしまえば常に次の瞬間どういう行動をとるかを選択しながら生きています。その選択は、自ら考えた合理的なものと思っていますが、実は、多くの選択が、他の人によって誘導されたり、または自分自身の勘違いや思い込みなどから、よくよく考えれば取らないような、また、裏を明かされれば自分でも驚くようなものとなっていたりするようです。

 この「選択の科学」を読むと、一瞬一瞬を漫然と選択していた自分に気付けるかもしれません。そして、その後の自らの行動や考え方に多大な影響を与えうる一冊だと思いました。

 ぜひ、ご一読されることをオススメします。

 

 

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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それでは、また別の記事でお会いしましょう。

 

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